ラッコのマイちゃん追悼特集


掲載日 2002/11/08


このページのみ 松田(通称:ラコラの旦那)制作





はじめに


よみうりランドラッコ館で5頭の赤ちゃんを産み育てたラッコのマイちゃん(推定12歳)が平成14年10月21日夜、下田海中水族館で息を引き取りました。
妊娠後の経過が芳しくなく、10月初旬から食事もほとんど受け付けず、母子共に危険な状態なため手術が行われましたが、残念ながらマイちゃんとその赤ちゃんの命を救うことは出来ませんでした。

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マイちゃんは、よみうりランドラッコ館で5頭の赤ちゃんを産み育てたメスラッコで、個性的なよみうりランドのラッコたちの中でも中心的な存在でした。
私、松田はラッコ館の閉館の半年ほど前からその動向を追っており、引っ越し先である下田海中水族館へも何度か足を運んできました。
今回、こうしてマイちゃんの記事を書いたのは、偶然にもその訃報を現地で知り、担当者から詳しいお話を伺った者として、多くの方にそれを伝える義務を感じたからですが、それ以上に、思い入れの深いマイちゃんのへ供養と、ぽっかり空いた心の穴を埋めるためでもあります。
そんな私的な試みですが、どうか、お付き合いください。

マイちゃんと僕

 

 

 

 

←よみうり時代のマイちゃん。
 物憂げなまなざしが印象的。
 (MEGUさん贈のマウスパッドから複写)

マイちゃんは僕にとって、かなり特別なラッコだった。
きりりとした美しさと同時に、ラッコ特有のやさしさを併せ持つその独特の雰囲気に惚れ込んでしまったのだ。
国内の多くの水族館でいろいろなラッコを見てきたが、僕は、マイちゃんのような独特の雰囲気を持ったラッコには出会ったことはない。
僕のパソコンのデスクトップには、今でもマイちゃんの物憂げなまなざしがある。
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初めてマイちゃんに会ったのはよみうりランドラッコ館だ。そこにいたマイ・メイ・ソラ・リクの4頭の中で、マイちゃんはいつも中心にいた。水槽の中で、ふわふわの産毛に包まれた子ラッコのリクを大事そうに抱えていたのがマイちゃんだった。
アラスカから来た野生ラッコで、人間とは常に距離を保ち、警戒心を絶やさず威厳を持っていた。グルーミングが上手で、常につやつやの毛並みを保っていた。5頭の子供を産み育ててた母親ラッコでもあり。生まれたばかりの赤ちゃんラッコをお腹の上に載せながらグルーミングしてあげる優しさと裏腹に、ちょっかいを出そうとする他のラッコ(ソラとかソラとかソラとか・・)を果敢に撃退する姿とのギャップは強烈だった。
食べ物の好き嫌いが激しくタラが大好きで赤身の魚はあまり
食べようとしなかった。同じアラスカ育ちのメイちゃんにねだられると、自分の嫌いな赤身魚を分け与えつつ、あまりにもしつこいので前足で右フックを放つ姿に、何度苦笑したかわからない。ようするに、見かけ以上にワガママでお嬢な性格だったのだ。でも、そんなマイちゃんが大好きだった。

川崎市にあるよみうりランドは僕の自宅から近いこともあって、月に何度も出かけることができた。数ヶ月のラッコ通いで、他のラッコたちがどんな性格かもわかってきて、それぞれの個別に見分けることも出来るようになった。そのときにはすでに、ラッコ一般ではなく「マイちゃん」や「メイちゃん」といった個体として僕の目に映っていた。
そのうち、以前から噂されていたラッコ館の閉館が決まった。
だが、
閉館日が決まっても、4頭のラッコたち全ての受け入れ先はなかなか決まらなかった。
この不景気の中、高価な餌代をはじめ、アラスカと同じような水温と室温を再現しなければならず、膨大な飼育費用がかかるラッコを受け入れる水族館は少ないのだ。それは、自分の再就職活動とも重なって、とても人ごとには思えなかった。
しかし春には、ラッコたちの受け入れ先も決まり、僕の再就職も決まった。
マイちゃんは伊豆の下田海中水族館に引っ越し、僕は、新しい仕事に忙殺され彼女に会いに行くことを忘れた。

そんなある日、無償にマイちゃんに会いたくなって下田に向かった。

だが、そこには、マイが運び出された後の空っぽの水槽があった。


10月23日(はれ)下田にて

10月23日、天気の良い水曜日。一人で特急に乗り3時間ほどかけて伊豆の下田に向かった。
4月から始めた仕事は、土日祭日は完全出勤のため、水曜日が唯一の休日だった。
日々の疲れで、他に何もやる気が起きないが、天気も良く暖かな休日にマイちゃんに会って和みたかったのだ。

実は、その前の週に出かける予定だったが、天気も悪く体調も優れなかったため延期していた。
二週間ほど前に行ったRACOOさんの話だと、マイちゃんは妊娠しており、そのためか、食欲がなく、飼育関係者が連日水槽の前で心配そうに観ていたという。僕は、すでに赤ちゃんが生まれていて、元気に子育てに勤しむマイちゃんに会えるかもしれないと期待しながら、入り江にかけられた桟橋を渡りラッコ館に向かった。

すでにラッコの給餌時間は終わり、ラッコ水槽の前には誰もいなかった。二つに仕切られた大きな水槽には2頭のラッコと、長いモップで水槽の底を掃除している飼育係さんがいたが、マイちゃんが隔離されているはずのもう一つの水槽はからっぽだった。
僕は、どこかに別の水槽があって、マイちゃんはそこに隔離されていると思った。
でも、ふと水槽の脇に貼ってあるラッコ紹介ボードを観ると、マイちゃんの名前が見あたらない。
言いようもなく不安になって、ラッコ担当者に声をかけた。

「マイは21日の夜11時に死にました。・・」

ラッコの飼育担当者でありマイの手術に最後まで立ち会った彼は、この一ヶ月の経過を淡々と語ってくれた。

以前僕がマイちゃんに会ったのは、よみうりランドから引っ越した直後だった。アラスカから一緒だった仲良しのメイとも、まだ1歳に満たない子ラッコのリクと引き離され、移送のショックもあってか、食欲もなく、かなりやせ細っていた。それでもが4月頃には新しい環境にも慣れ、食欲も戻り、他のラッコたちと仲良く共同生活を送るようになった。
そこで、オスラッコのチャオとの交尾が確認され、一ヶ月ほど前から、妊娠の兆候が見られたという。
だが、今までの妊娠のパターンは、気が付いたらひょっこり生まれていたという感じだったが。今回はいつまでたっても生まれずに、10月の初め頃からすっかり餌を受け付けなくなった。
ラッコの場合、大量に餌を摂取することで、寒い海でも生きていける。皮下脂肪の少ないラッコは、通常二三日食事を採らないだけで死んでしまうという。このままだと、母子共に危険だと判断した飼育スタッフは、21日最後の手段として手術を行うことにした。
数時間に及ぶ手術の結果、お腹の中の赤ちゃんはすでに死んでおり、マイ自身もかなりのダメージを受けていた。そして、手術のかいもなくマイは息を引き取った。

結局彼女は20日近く食事を捕らず、生き続けた。それだけでも驚異的な事だという。
しかも、手術の最中も生き続けていたのだ。
彼は「マイは最後まで生きようとしていました」 と言った。


マイは元気だよ!!

相手は生き物で、特に飼育が難しいと言われているラッコだ。その生き死には当たり前のことかもしれない。
だが、生まれたラッコはニュースになるが、死んだラッコの多くは誰にも語られず忘れ去られる。
こうして、HPに書いているのは、それがいやだったのかもしれない。

僕が、マイのいない空っぽの水槽に対面した日の朝に、本来の引受先である江ノ島水族館のスタッフが、彼女の亡骸を引き取りに来たという。 その亡骸がどうなったかは知らない。

僕は、ふと思う。アラスカの海で捕獲され、はるばる日本にやってきたラッコ。
狭いプールに押し込められ、そこで残された一生を過した。
だが、餌には恵まれ、飼育係さんたちの愛情をたっぷり受けていた。
そして良いパートナーに恵まれ5頭の子供を産み育てあげた。

よみうりランドでの最終日、それまで水槽を傷つけるために与えなかった貝を与えると、他の水族館生まれのラッコのようにプールの淵に打ち付けて割ることをせず、自分のお腹の上で割って食べたという。
マイは野生を忘れていなかったのだ。

彼女の一生をどう受け取るか、人それぞれだろう。
だが、少なくとも、マイ自身は、そこにある環境で一生懸命生きた。
それだけは確かだと思う。
そして、今でも、マイの子供達は各地の水族館で一生懸命生きている。
そんな彼らを見ていると、ふと、母親であるマイちゃんの面影を見ることがある。

「マイは元気だよ!!」僕にはそんなふうに聞こえるのだ。(了)



飼育関係者の皆様、本当にご苦労様でした。
マイちゃんを通じて知り合った多くのラッコファンの皆さん、今後も、ラッコ達の姿を見守っていきましょう。


そして、マイちゃん、今まで本当にありがとう。

 

元気だった頃のマイちゃん(右側)
下田海中水族館にて



付記:よみうりランドのラッコ達の移動先
2002年2月末に閉鎖されたよみうりランドラッコ館から移動したラッコたちのリスト
マイちゃん
推定12歳♀
  下田海中水族館
江ノ島水族館より預かり)
アラスカ生まれ。よみうりランドラッコ館で5頭の子ラッコを生み育てた。
下田海中水族館のチャオの子を宿したものの、妊娠後の経過が思わしくなく10月21日他界。
メイちゃん
推定11歳♀
  マリンピア松島水族館

マイと一緒によみうりランドに来たアラスカ生まれのメスラッコ。
現在、よみうり時代に一緒だった♂のパルくんと♀のクーピーちゃんとの三角関係中?相変わらず元気。

ソラくん
2歳♂
  鶴岡市立加茂水族館 マイちゃんとドンくんの間に生まれた三男。現在、♂ラッコのカモくんと同居中。まあまあ仲良くやってる。お髭は伸びてました。

リクくん
1歳♂

 

サンシャイン国際水族館
アクアワールド大洗
下田海中水族館(現在)

マイちゃんとドンくんの間に生まれた四男。現在、年長の♀ラッコと同居中。オモチャを独り占めして元気。


・他にも、マイちゃんの元旦那さんドンくんは鳥羽水族館で元気。(2003年残念ながら逝去)
・長男のユウくん(7歳オス)は青森の浅虫水族館で元気。(2004年息子モモタロウ誕生)
・次男のパルくんは(5歳オス)マリンピア松島水族館でメイちゃん達と三角関係?
・長女のベルちゃん(4歳?メス)は鴨川シーワールドで暮らしてます。


■このページの文責は、「ラコラの旦那さん」こと、松田(E-mail : behind@nna.so-net.ne.jp)
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